ヒトラー/最期の12日間

20世紀最大の怪物と呼ばれたヒトラーの最期の12日間を、彼の最後の秘書だったトラウドゥル・ユンゲの目を通して描いた作品。
ヒトラーを演じるのは「ベルリン・天使の詩」「永遠と一日」のブルーノ・ガンツ。
そして秘書のトラウドゥル・ユンゲを演じるのは「トンネル」のアレクサンドラ・マリア・ララ。
共演に「点子ちゃんとアントン」「名もなきアフリカの地で」のユリアーネ・ケーラー、「ブレイド2」「バイオハザードII アポカリプス」のトーマス・クレッチマンなど。
監督は「es」のオリヴァー・ヒルシュビーゲル。

ただひたすらに重く、哀しく、怒りを感じる作品。
この暗鬱とした気分はしばらく晴れる事はないでしょう。

ヒトラーという人物は歴史的に第二次世界大戦での悪の象徴として語れる事が多いですが、それは一面的な部分でしかないと僕は常々思っていました。
確かにユダヤ人のホロコーストなどを推し進めたという事実はありますが、それ以前に失業者で溢れかえっていたドイツ経済を回復させた政治家としての手腕も見逃せません。

そもそも冷酷非道な独裁者といえども1人の人間。
この作品は1人の人間としてのヒトラーの最期の姿を見事に描いていました。
勿論これはこれで一つの面に過ぎないのですが。

この作品で描かれているヒトラーは一般的なイメージからは程遠い人物として描かれています。
愛犬と無邪気に戯れ、少年兵や秘書には笑顔を向け、威圧感もなければカリスマ性も感じられない。
敗戦が濃厚になると虚ろな表情を浮かべ、ヒステリックに部下たちを怒鳴り散らし、痛々しいまでの孤独を感じさせる。
ナチスの内部にあっても孤立し、人間として少しずつ壊れていくヒトラーは本当に怪物だったのでしょうか?
僕には社会が怪物を作り出したように思えてなりません。

この作品が1人の秘書の視線から描かれた一面的なものであるとは言え、これは重要な側面だと思います。


そのヒトラーを演じていたブルーノ・ガンツですが、容姿は勿論の事、仕草や喋り方までこれ以上は望めないと言うほど真に迫った演技で驚かされました。
途中何度もこれが映画である事を忘れ、ドキュメンタリーを観ているかのような錯覚に陥ってしまいました。

この役を演じるまでに相当な葛藤があったとは思いますが、その葛藤さえも必要不可欠だったと思える凄まじい演技でした。

この作品はヒトラーの最期を描いていると同時に、ナチス、そしてドイツという大きな集団の崩壊も描いています。
地下要塞では逃げ出す者、裏切る者、自ら死を選ぶ者が、そして地上では国に見捨てられた国民が連合軍の銃弾に傷付き、倒れ、ひたすら逃げ惑う。
その描写は凄惨を極めます。
しかし、ヒトラーだけを描くのではなく、ヒトラーの死後も含めたこういった敗戦直前のドイツ国内の様子を描く事でこの作品のリアリティは何倍にも増していました。

戦争の恐ろしさ、痛ましさ、悲惨さをその加害者でもあった側から描く事で、より一層戦争の愚かさを際立たせ観る者に問いかけてくる強烈な作品です。


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コメント

  1. jazz says:

    ミスター、ぼじお!コンバンワー!イカガデスカー!!

    わたしは決して帝國主義者でもファシストでもないですが、
    世界的な”ヒトラー観”には疑問を持ってるひとりです。
    ’30年代後半にヒトラーがあれだけ人気を博したワケは、
    ”第一次大戦敗戦のドイツを牛耳ったユダヤ人への反発”
    と一部で言われているそうで、
    当時ド貧困に喘いでいたドイツ国民から搾取していたのは、
    ドイツ国内で荒稼ぎしていたユダヤ人だったそうです。
    (その財力をアテにしていたのが日本だったのも皮肉)
    実際、”ヒトラー=悪魔”を常識にしたのは、
    第二次大戦後に世界中のメディアを掌握した、
    他でもないユダヤ系の人達だそうです。

    ”勝てば官軍”の理のとおり、事実が歪められるって事は
    世界的にであっても、個人的にであっても、
    抗う事のできない大きな流れなのかも知れませんね。

    ・・・この映画観てみようかな?

  2. TOMCAT says:

    こんばんわ~

    ご覧になられましたか!!
    去年のパッションもしばらく考えさせられる映画でしたが、このヒトラーも同様に、後々の思索を残す良い映画でした。コレは見ておかなくてはいけない映画です。

    多分、見た方がた全ての方が違った解釈をするのでしょうが、見た後で、考察を伴う映画は貴重です。
    良い映画でした。

    もう少し、国防軍の事にも触れて欲しかったです。
    正当化するつもりも無いのですが、やっぱりゲシュタポとは異質でへだたった解釈を明快にすべきだったのではと思います。

    見終わった後の充足感はこの上ないものでした。
    夜の最終で見たんですが、おじちゃんがいっぱいの中で、3人しか女性が居なかったんですよ(笑)

  3. sin says:

    >jazzさん
    どうもどうも、札幌の準備はどうですか?
    大変でしょうけど頑張って下さいね!
    僕も決してヒトラーを擁護するつもりはありませんが、スケープゴート的に扱う事には疑問を感じます。
    jazzさんが書かれてるような事も要因にはあったでしょうし、その他様々な要因が複雑に絡み合って当時の世界が怪物を生み出してしまった、というのが僕の考えです。
    実際ヒトラーの存在を認め、利用した人が数多くいたのですから。
    この作品でのヒトラーには憐れみすら感じてしまいます。
    是非jazzさんもご覧になって下さい。

    >TOMCATさん
    どうもです。
    TOMCATさんのプッシュもあって観てきましたよ。
    いやぁ、ほんと観て良かったです。
    他ならぬドイツからこんな作品が出てくるという事にも驚きましたが、様々な過去の歴史を改めて見直す時代に突入したのかなと思いました。
    日本でもこういった作品は作られるべきですね。
    発売されてからもう1度じっくり見ようと思います。
    僕は昼の回で観たんですが劇場の入りは100%、文字通り満員でした。
    確かに年齢層はかなり高めでしたね。
    でもこれは若い人にこそ観てもらいたい作品です。

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