ミュンヘン

1972年のミュンヘン・オリンピックで起きたパレスチナ・ゲリラ”黒い九月(ブラック・セプテンバー)”によるイスラエル選手殺害事件とその後のイスラエル暗殺部隊による報復の過程を描いたサスペンス・ドラマ。
原作は、暗殺部隊の元メンバーの告白を基にしたジョージ・ジョナスの「標的(ターゲット)は11人 モサド暗殺チームの記録」。
主演は「ハルク」「トロイ」のエリック・バナ。
共演に、新ジェームズ・ボンドに決定した「トゥーム・レイダー」「シルヴィア」のダニエル・クレイグ、「カレンダー・ガールズ」「ヴェロニカ・ゲリン」のキアラン・ハインズ、「アメリ」「バースデイ・ガール」のマチュー・カソヴィッツ、「さすらい」「太陽の雫」のハンス・ジシュラー、「シャイン」「パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち」のジェフリー・ラッシュなど。
監督は「ターミナル」「宇宙戦争」のスティーヴン・スピルバーグ。

スピルバーグと言えば誰もが認める世界一のエンタテインメント作家。
「E.T」や「インディ・ジョーンズ」「ジュラシック・パーク」などの娯楽作品を作る一方で、「太陽の帝国」や「シンドラーのリスト」「プライベート・ライアン」などシリアスな作品も世に送り出してきました。
しかし、この「ミュンヘン」はこれまでのスピルバーグ作品とは一線を画す作品です。
派手さも感動も無く、あるのは重苦しい空気に包まれる終わりなき復讐の連鎖だけ。
9.11以降、「ターミナル」「宇宙戦争」とテロを意識した作品を撮ってきたスピルバーグですが、この作品のテーマはまさにそのテロそのもの。
全編に痛いほど張り詰める緊張感と、徹底して登場人物や、そして観客さえも冷徹に突き放すかのような娯楽性皆無のリアリズムが、テロと、そこから始まる復讐の連鎖が如何に恐ろしく、悲惨で、救いを得られないものかを描き出していきます。


「宇宙戦争」のトム・クルーズ同様、この作品の目線は常にエリック・バナ演じる主人公アヴナー。
妊娠した妻を祖国に残し、テロリストたちの暗殺という任務に就くアヴナーの苦悩と葛藤、そしていつしか追われる立場になり感じる見えない恐怖を、観客はアヴナー自身を通して感じていくわけですが、このエリック・バナの演技が予想以上に良かったです。
人を殺した事もなかった一人の男が任務を遂行する中で冷酷な人間へと変貌し、そして徐々に精神的に追い詰められていく様を見事に演じていました。
脇を固める俳優陣の抑えた中にも自己主張のある演技はどれも素晴らしかったのですが、その中でも特にキアラン・ハインズが際立っていました。
これまでの作品でも見せたあの重厚で人間味溢れる演技がこの作品に一時の安らぎを与えていたように思います。
敢えてスターを起用しなかったこの国際色豊かなキャスティングからも、この作品に対するスピルバーグのスタンスが見て取れます。

世界一のヒットメイカーという自分の地位を最大限に利用してスピルバーグが表現したかった、訴えたかった事。

それは様々な歴史的、宗教的問題を考えると、決して容易な事ではないかも知れません。

しかし、だからこそユダヤ系移民であるスピルバーグがこの作品を撮った意義は大きいと思います。

ラストの光景に重なるスピルバーグのメッセージが、時間が経てば経つほど重く心にのしかかってきます。


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コメント

  1. ★「ミュンヘン」

    ミュンヘン
    2005年   スティーブン・スピルバーグ 監督エリック・バナ , ダニエル・クレイグ , キアラン・ハインズ , マチュー・カソヴィッツ
    やっぱり、こういうのが、今のスピルバーグなのね。
    ミュンヘン五輪で実際に起きたテロの映画化。
    http://time-de-

    第78回(2006年度)アカデミー賞5部門(作品賞・監督賞・脚色賞・編集賞・作曲賞)に ノミネートされた「ミュンヘン」は、スティーヴン・スピルバーグ監督が、 1972年のミュンヘン・オリンピックで実際に起きたパレスチナ・ゲリラによる 11人のイスラエル選手殺害事件とそ…

     ミュンヘン事件そのものではなく、”その後のミュンヘン事件”を扱った作品。  パレスチナへの報復として、素人であるにもかかわらず刺客として抜

     
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    監督:スティーヴン・スピルバーグ
    出演:エリック・バナ、ダニエル・クレイグ、ジェフリー・ラッシュ
    マチュー・カソヴィッツ
    公式サイト
    ママの評価☆☆☆☆★(☆4つ)
    昨日やっとやっと観て来ました。早く観たかったんですよね。
    凄い話題だったし、、、、
    「…

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    パ…

    この映画の背景を知るには、パレスチナとイスラエルの歴史、ならびに(この映画には

    ~「第20回冬季トリノ五輪開催記念」(^^)あれこれ―その2:ああ、ミュン篇(^^)

    →その1:ああ、トリノ五輪篇~僕のメダル獲得予想は「金3、銀3、銅4」は、こちら!

    →その3:ああ、名古屋篇~ストーンズ「名古屋公演」行くか行くまいか...は、(※後刻!)…

    ?http://brog.hw-hw.com/trackback/136122

    『ミュンヘン』 
    公式HPはこちら
     ENTTER SITEでFlash版

    ●あらすじ
    1972年9月5日、ミュンヘン・オリンピックの選手村で、パレスチナゲリラ(黒い九月)のテロにより、イスラエル選手団11人死亡…

    原題:Munich(アメリカ)上映時間:164分監督:スティーヴン・スピールバーグ出演:エリック・バナ(アヴナー)、ダニエル・クレイグ(スティーヴ)、キアラン・ハインズ(カール)、マチュー・カソヴィッツ(ロバート)、ハンス・ジシュラー(ハンス)、ジェフリー・ラ…

    第78回 アカデミー賞 作品賞、監督賞 ノミネート作品 1972年のミュンヘンオリンピックで実際に起きた事件を元に描かれたこの映画。 その事件は、「オリンピック選手村で11人のイスラエル代表が殺された」というものであり、犯人はパレスチナ人だった。 当時、生まれた…

     また爆弾の量を間違えちゃったよ・・・ってシャレにならないんですけど・・・

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     30個目のアカデミー賞受賞なるか?スティーブンスピルバーグの「ミュンヘン」を見てきました。

    【映画的カリスマ指数】★★★☆☆

     人間の哀しく愚かな本質をみる

    「ミュンヘン」

    評価 ★★★★☆

    『あらすじ』

     1972年、ドイツのミュンヘンで開催されるオリンピックのため、選手たちが次々と選手村へと集まる
    中、ブラック・セプテンバー(黒い9月)と名乗るテロ集団によって、イスラエル人の選手、コーチ、大…

    映画館にて「ミュンヘン」★★★★

    スティーヴン・スピルバーグ監督が、1972年のミュンヘン・オリンピックで実際に起きた事件の真相を、史実に基づいて映画化した問題作。

    私自身おぼろげにしか記憶がないミュンヘン・オリンピック開催中のイスラエル選手団襲撃事件を、…

    2時間44分の長い作品ですが、
    スピルバーグ入魂の力作で素晴らしい作品でした。
    物語の発端なった恐ろしいミュンヘンオリンピックの惨劇事件は
    この映画が話題になるまで知らなかったんです。
    その事件の顛末を描く作品だとばかり思ってましたが、
    後日談の報…

    試写ホールの古椅子に座って観たらさすがにお尻痛くなった?{/ase/}

    退屈?ってことにはならなかったけど、やっぱり長い。2時間44分{/ee_3/}
    「長いなぁ、、、。」と思い始めた頃、意外とあっさり終わってしまった、、、

    「ターミナル」といい「宇宙戦争」といい最近ど…

    事実以上の驚きは無い。
    でも,響くメッセージは胸に刺さる。

     昨日はスティーブン・スピルバーグの新作「ミュンヘン」を観てきた。正直、本作は観

     1972年9月、ミュンヘン・オリンピック開催中、武装したパレスチナのテロリスト集団“黒い九月”がイスラエルの選手村を襲撃、最終的にイスラエル選手団の11名が犠牲となる悲劇が起きる。これを受けてイスラエル政府は犠牲者数と同じ11名のパレスチナ幹部の暗殺を決定、…

    1972年ミュンヘンオリンピック、パレスチナゲリラによってイスラエル選手11人が犠牲になる。イスラエル機密情報機関“モサド”は暗殺チームを編成しパレスチナゲリラ11人暗殺が実行される。。。という事実に基づいたお話です。

    ミュンヘンオリンピックのときに…

    公開初日のナイト・ショウで観てきました。
    スピルバーグ監督の映画という事で、夜中にしてはまずまずの入り。
    原題は「MUNICH」。
    2005年製作のサスペンス・ドラマ、164分もの。

  2. でんでん says:

    こんにちは。
    トラックバックありがとうございます。

    >ラストの光景に重なるスピルバーグのメッセージが、時間が経てば経つほど重く心にのしかかってきます。

    淡々と、それでいて衝撃的な物語、そしてラストの短く語られた会話が今の世界を表していますね。娯楽に徹する彼の違う一面を見る事ができました。

  3. ミチ says:

    こんにちは♪
    TBありがとうございました。
    スピルバーグが作ることで世界が注目する!
    まさにそれなんですよね。
    名も無い方が問いかけるよりも、映画人の頂点に立つ彼が問いかけるからこそ意義があったと思います。
    たとえ賛否両論の嵐に見舞われようと、それを覚悟で世に問いたかったのだと思います。

  4.  TBありがとうございますm(_ _)m

     ただただ重い作品かと思っていたの
    ですが、やる側とやられる側、互いに
    生活があり、守るべきモノがあったん
    だと。

  5. のり says:

    いつもに増して熱の入ったレヴューですねー
    メモメモφ(*-д-)

  6. sin says:

    >でんでんさん
    いつも娯楽である事を忘れない作品作りをしているスピルバーグだけに、そのギャップの大きさもインパクトありましたね。
    ラストシーンはほんと印象深かったです。

    >ミチさん
    ほんとそうですよね。
    例えば他の一流監督が同じような作品を撮ったとしてもここまでは注目されないでしょうからね。
    普段娯楽作家として活動している自分のポジションさえも利用した、このスピルバーグのメッセージは多くの人々の心に響いていると願いたいです。

    >たましょくさん
    中立の立場で描く事に対して批判もあるようですが、当たり前の事ですもんね。
    どちらにも信じるべきものがあり、守るべきものがある。
    そこにお互いを理解しようとする気持ちがないと悲劇はいつまでも繰り返されるんだと思います。

    >のりやすくん
    良い作品にはそれだけ言葉が自然に出てくるって事。
    でも、これは日本ではヒットしないやろなぁ。

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